平成26年度税制改正大綱(概要)
与党は12日まとめた2014年度改正大綱で、来年4月の消費税率引き上げをにらみ、年収1000万円超の会社員の給与所得控除縮小や地方法人税の配分見直し、大企業の交際費課税の見直しなども決めた。
給与所得控除
年収1000万円を超える会社員の所得税や住民税の負担が段階的に増える。2016年からは年収1200万円超、17年以降は年収1000万円超の給与所得控除を縮小する。会社員の3.8%にあたる約172万人が影響を受ける見通し。国・地方を合わせた増収額は平年度で約1100億円に上る。
サラリーマンなど給与所得者は所得税や住民税の基準となる課税所得を計算する際、給与収入から必要経費にあたる「給与所得控除」分を差し引くことが認められている。控除額は収入に応じて65万〜245万円に分かれている。
現行の給与所得控除の上限額は年収1500万円超で245万円。これを16年に年収1200万円超で230万円、17年には年収1000万円超で220万円に下げる。
給与所得控除を縮小すると、その分課税所得が増えるため、所得税は同年分、住民税は翌年度分から払う税額が増える。財務省の試算によると、夫婦と子ども2人の4人家族の場合、年収1500万円では現行に比べて16年分に7万円、17年以降はさらに4万円税負担が増える。年収1200万円なら16年分は負担は増えないが、17年以降は3万円の負担増になる。
住宅ローン減税 控除最大40万円に上げ
消費税率が5%から8%に上がる2014年4月から、住宅ローンを組んだ人への減税が拡充される。消費税の引き上げ前の駆け込み需要や引き上げの後の反動減を抑制するためだ。
住宅ローン減税の制度は年末のローン残高の1%を所得税などから差し引く税額控除を受けられる。現行制度では一般住宅やマンションを購入した場合、最大の控除額は年間20万円だ。
これが来年4月からは最大40万円(10年間で最大400万円)に引き上げられる。17年12月末までに入居した人が対象だ。この見直しは今年度の税制改正大綱に盛り込まれていた。
耐震性や省エネ性能などが高く一般住宅より寿命が長い長期優良住宅の場合は、一般住宅より最大控除額が10万円多い。支払っている所得税が控除額に達しない場合に住民税から一部を控除できる額も増やす。現行の約4割増の最大13万6500円を差し引けるようになる。
所得税と住民税からの控除を合わせても、減税の恩恵を十分に受けにくい中低所得層には最大30万円の現金を給付する制度も14年4月から始まる予定だ。
金融税制
家計の金融資産を貯蓄から投資に移す環境整備にも取り組んだ。少額投資非課税制度(日本版ISA=NISA)は毎年、違う金融機関で非課税の投資ができるようにする。
交際費
企業の交際費課税では、資本金1億円超の大企業を対象に飲食費の50%までを税法上の費用(損金)として認め、法人税負担を軽くする。企業による接待を活発にして中小・零細事業者が多い飲食店を潤し、景気を下支えする狙いがある。減収額は約650億円。2014年度から2年間の時限措置とする。
法人税は収益から人件費や原材料費など損金を差し引いた課税所得を基に税額を計算する。法人が支出する交際費は企業会計では全額が費用とされるが、税法上は損金への導入を制限してきた。
13年度税制改正で中小企業に年800万円を上限に交際費の全額損金算入を認めたが、与党は消費を刺激するためには大企業で交際費の非課税枠を広げる必要があると判断した。
新制度では資本金1億円超の大企業に対し、交際費のうち飲食費については50%まで損金算入を認める。上限は設けないが、損金算入の割合を半分にすることで接待費が際限なく拡大するのを避ける狙いだ。会社の経費を使って役員や従業員が飲食する社内接待費は対象外とする。
資本金1億円以下の中小企業は@800万円まで交際費の全額損金算入A飲食費の50%損金算入――のどちらか有利な方を選べるようにする。
バブル崩壊後の景気低迷もあり、企業の交際費は1992年度の6.2兆円から2011年度には2.8兆円と半分以下に落ち込んだ。与党は交際費課税の見直しを、地方を中心に経済の活性化につなげたい考えだ。
投資減税
政府は新たに設備を購入した企業が投資額の最大10%を法人税から差し引ける控除制度を設ける。民間設備投資を、2012年度の63兆円から3年後に70兆円まで高める狙いだ。
控除制度は将来の生産性が1%以上あがる機械や工具、または投資利益率が15%以上の生産ラインを導入すると、投資額の5%を控除できる。
控除の代わりに「即時償却」も選べる。通常は5年以上かかる投資額の減価償却を1年ですませ、投資した年の法人税額を大幅に減らして将来に繰り延べする仕組みだ。
中小企業の控除率は資本金1億円以下で7%、同3000万円以下なら10%。対象となる設備もソフトウエアやサーバーなど幅広い。
研究開発費を増やした企業向けの法人税の控除も拡大する。従来は直前3年の平均を上回った試験研究費の5%を控除する仕組みだったが、控除率を30%に高める。
賃上げ減税
企業に賃上げを促す税制も拡大する。現行は「給与総額を2012年度比で5%以上増やした企業」が増額分の10%を法人税から差し引ける仕組みだが、適用条件を緩める。減税規模は平年度ベースで1600億円に上る見通しだ。
今年度から導入した所得拡大促進税制は、@給与総額が12年度比で5%以上増加A給与総額が前年度以上B1人当たり平均給与が前年度以上――の3つの条件を満たせば、給与総額の増加分の10%(中小企業は20%)を税額控除する仕組み。
ただ「条件が厳しすぎて使えない」との声が企業から相次いだため、給与総額の増加率の条件を見直す。13〜14年度は12年度比で2%以上、15年度は3%以上に緩和する。平均給与も単純比較をやめて退職者や新入社員を対象から外す。
企業型の確定拠出年金で、非課税となる毎月の掛け金の上限を14年10月にも約8%引き上げる。09年度以来、約5年ぶりの改定だ。企業年金をほかに持たない場合は上限が5万5000円に、ほかの企業年金と組み合わせた場合では上限が2万7500円になる。
確定拠出年金は毎月の掛け金を元手に、加入者があらかじめ用意された金融商品を選んで運用する。運用成績に応じて、将来受け取る金額が変わる。企業型では企業が出す掛け金が全額損金算入でき、個人型では掛け金を全額所得控除できる。運用で生じた配当や譲渡益も非課税だ。
今回、限度額の引き上げが決まった企業型は約1万7千社が採用し、利用者は450万円を超える。掛金の上限額が上がれば、より多くの資金を非課税で運用でき、利用者や運用額の増加につながりそうだ。
消費税の簡易課税
中小企業や商店の消費税納税に伴う事務負担を軽くする「簡易課税制度」は2015年度から見直す。金融・保険業と不動産業でみなし仕入れ率を引き下げる。消費者が払った消費税が中小事業者の手元に残る「益税」を縮小する狙いがある。
事業者が納める消費税額を計算する際は、「売り上げにかかる消費税額」から「仕入れにかかった消費税」を差し引く。だが中小・零細企業は従業員が少なく、仕入れ額の正確な把握が難しい場合もある。
財務省は業種ごとにみなし仕入れ率が実態から離れていないか定期的に調べているが、直近の調査では保険代理店など金融・保険業と不動産業で実際の仕入れ率がみなし仕入れ率をかなり下回ることがわかった。
15年度以降はみなし仕入れ率を金融・保険業で60%から50%、不動産業で50%から40%にそれぞれ引き下げる。